スターリンクの効果が、ついに決算の数字に出てきました。日本航空(JAL)が11月2日に発表した2026年度上期(4〜9月)決算で、中長距離LCCのZIPAIRは旅客収入が前年比12.3%増。JALはその理由として、高速インターネット「Starlink」の全機搭載完了と柔軟な価格戦略を挙げています。座席利用率は前年の73.7%から87.8%へ跳ね上がりました。
分厚い決算資料の中のわずか1行ですが、かなり踏み込んだ書き方です。航空会社が機内Wi-Fiの提供元を名指しで増収要因に挙げるのは珍しいこと。JALの資料には「高速インターネット『Starlink』の全機搭載完了によるプロダクト価値向上と、柔軟な価格戦略により、前年比+12.3%の増収」とあります(英語版も同じ内容)。
数字を見てみると
航空ニュースサイトsky-budgetがまとめたJALの決算詳細によると、ZIPAIRの上期の旅客収入は429億円。7〜9月の第2四半期だけで見ると19.3%増の205億円でした。
面白いのは中身です。ZIPAIRは実は飛ばす座席を減らしていました。提供座席キロ(ASK)は9.7%減の5,095百万席キロ。それでも有償旅客数は5.3%増の約71万人、有償旅客キロ(RPK)は7.6%増。座席は減ったのに、乗る人は増えたわけです。平均の旅客単価も5万6,753円から6万491円へ6.6%上昇。結果として、提供座席1キロあたりの収入(ユニットレベニュー)は上期で24.4%増、第2四半期単独では33.4%増と大きく伸びました。
第2四半期単独の座席利用率は87.1%で、前年から16.9ポイントの改善。787で太平洋を渡るLCCとしては、ほぼ満席に近い感覚です。
全席無料という選択
ZIPAIRはJALの100%子会社で、ボーイング787-8を8機保有。成田からバンコク、ソウル、ホノルル、シンガポール、ロサンゼルス、サンノゼ、サンフランシスコ、バンクーバー、ヒューストンに飛んでおり、10月にはクアラルンプール線も加わりました。2023年からスペースXと技術検証を進め、2026年2月26日にスターリンクのサービスを開始。ボーイング・グローバル・サービスと組んで5月5日に全8機への搭載を完了しました。ZIPAIRによると、保有機全機がスターリンクに対応した航空会社はアジア初。Aviation Wireが当時報じた通り、全便・全座席クラスで、自分のスマホやタブレットから無料で使えます。
深田康裕社長は5月の発表で「無料の高速インターネットを、航空旅行の新たな基本サービスとして提供できることを誇りに思います」とコメントしていました。LCCといえば座席以外はほぼ有料が基本。10時間のフライトで乗客がいちばん欲しいものをあえてタダにしたのは、明確な戦略です。
ただし、注意点も
JALは、増収のうちスターリンクの効果と価格戦略の効果がそれぞれどれくらいかは分けていません。両方が同時に動いています。座席を1割近く減らせば、それだけでも利用率は上がります。さらに燃油高はLCC事業全体を直撃しました。ZIPAIRとスプリング・ジャパンを含むLCC事業の売上収益は11.4%増の658億円でしたが、EBITは73.0%減の18億円。スターリンクでZIPAIRが大もうけしたわけではなく、「席を売るのに効いた」とJALが見ている、というのが正確なところです。
これは米国の航空会社の声とも重なります。ユナイテッド航空のスコット・カービーCEOは最近、スターリンクを「航空業界最大の競争優位」と呼びました(関連記事)。今週はエア タヒチ ヌイも2027年から全機で無料のスターリンクWi-Fiを提供すると発表したと、TeslaNorthとDrive Tesla Canadaが報じています。欧州ではeasyJetが2027年から全機にスターリンクを採用(関連記事)。ZIPAIRの数字は、アジアから出てきた初めての「実績データ」です。
EVXの視点
日本の旅行者にとって、これまでで最も具体的なスターリンクのデータです。しかもスペースXの宣伝資料ではなく、日本企業自身の決算資料から出てきました。全機にスターリンクを積んだ日本の航空会社は今もZIPAIRだけ(全機搭載の完了時、産経新聞は「国内唯一」と報じました)。ANAは国際線でViasatの新システムを順次導入中。JALは5月にBusiness Insider Japanの取材に対し、既存機は静止軌道衛星を使っていると説明し、新造の737-8、A350-900、787-9などに低軌道衛星も使う新システムを入れる予定だとしています(提供元は明かしていません)。子会社のLCCで増収効果が見えた以上、「フルサービスの機材はいつ?」という声は社内外で強まりそうです。KDDIがすでにスターリンクを販売し、スマホの衛星通信が次の主戦場になりつつある日本で、スターリンクの存在感を地味に押し上げる材料でもあります(楽天側の動きはAT&TとAST SpaceMobileの記事で)。ZIPAIRは今年度に新造787を2機受け取り、2030年代前半までに事業規模を2倍以上にする計画。日の丸カラーならぬZIPAIRカラーのスターリンク機は、これから増えていきます。
出典:JALグループ 2027年3月期 第2四半期連結業績(PDF)、JALグループ決算(英語版)、sky-budget(ZIPAIRのセグメント数値)、ZIPAIRプレスリリース(2026年5月8日)、Aviation Wire、産経新聞、Business Insider Japan、TeslaNorth、Drive Tesla Canada。
— EVX News 編集部
アイキャッチ画像:サンノゼ発ZG29便で成田に到着するZIPAIRのボーイング787-8(JA824J、2026年6月12日)。撮影:S5A-0043/Wikimedia Commons(CC BY 4.0、リサイズ)
