基地局から衛星へ、通話を切らずに引き継ぎ AT&TとASTが業界初、楽天の衛星サービスにも追い風

米AT&Tと米AST SpaceMobileは、通話中のスマートフォンの接続を、地上の基地局から衛星へ途切れさせずに引き継ぐことに成功したと発表しました。地上の携帯網とスマホ直接通信の衛星網の間の「ハンドオフ」は業界初だとしています。試験は米国時間10月21日(水)午前8時15分(日本時間22日午前0時15分)、ワシントン州グラナイトフォールズ郊外で行われ、両社が米国時間11月2日(月)に発表しました。日本にも関係のある話です。楽天モバイルが年内に始める予定の衛星とスマホの直接通信サービスも、このASTの衛星を使うからです。

これまでの衛星とスマホの直接通信は、どちらかというと「圏外になったときの予備」でした。基地局の電波を失い、しばらくして衛星をつかまえ、そこからやり直す。AT&Tも「他社のサービスでは、地上と衛星のエリアをまたぐと通話が切れたり通信が途切れたりすることがある」と書いています。今回の試験では、ネットワーク側が裏で接続を乗り換えさせました。

役割分担

関わったのは4社です。AT&Tが地上の携帯網、ASTが市販のスマホと直接つながる「BlueBird」衛星を担当。エリクソンはAT&Tの無線・コア設備とネットワーク自動化を提供し、切り替え時間を「数秒から数ミリ秒に」縮めたとAT&Tは説明しています。ノキアは、ASTの宇宙側ネットワークを動かす無線アクセスとモビリティのソフトウェアを提供しました。Investing.comによると、これまでの試験ではBlueBird衛星経由で普通のスマホの音声通話、SMS、ビデオ通話にすでに成功しています。今回はもっと難しい部分、つまり「すでに続いている通信を別のネットワークへ移す」ことに挑んだわけです。

AT&Tのネットワーク担当上級副社長ロバート・ウォルターズ氏は「ハンドオフの成功は大きな節目だが、ゴールではない」とコメント。次は実環境でのベータサービス、その後に商用化という流れですが、どちらも時期は示していません。Telco Magazineによると、ASTのウェイン・ソーセン最高商務責任者は、今あるスマホのまま通話やアプリ、動画のストリーミングができ、救急隊などの通信の冗長性も高めるネットワークだと説明しています。

念のため押さえておきたいのは、これは1カ所で行われた1回の技術試験で、発表したのも当事者の企業だという点です。Broadband BreakfastやTelecompaperも結果を報じていますが、第三者による測定データはまだ公開されていません。

スターリンクとの関係

ASTは、スターリンクのスマホ直接通信の最大のライバルです。米国ではAT&TとベライゾンがAST陣営につき、Tモバイルの「T-Satellite」はスターリンクを使っています。一方のスペースXは、自ら携帯キャリアになろうとしています。10月下旬にはFCC(米連邦通信委員会)が同社の携帯向け周波数への進出を認め、米国時間2日(月)にはワシントン・ポストが、大手3社に断られたスペースXがBoost Mobileの買収かネットワーク利用を協議していると報じました(Boost Mobileの記事)。

両社の賭け方はまったく違います。スペースXは小型の直接通信衛星を大量に飛ばす作戦。ASTは数はずっと少なく、そのかわり一基一基が巨大です。楽天によると、ASTの衛星のアンテナは1基あたり約223平方メートルで、ほぼテニスコート1面分。キャリアが衛星を「非常用のおまけ」ではなく自社ネットワークの一部として扱うには、途切れないハンドオフのような技術が欠かせません。AT&Tは今回、それを実演してみせた形です。

EVXの視点

両陣営のサービスがもうすぐ並んで使えるようになる市場が、日本です。KDDIの「au Starlink Direct」やNTTドコモの「docomo Starlink Direct」(半年足らずで利用者1,000万人を突破)で、日本ではすでに普通のスマホがスターリンクにつながります。一方、楽天モバイルはASTを使う「Rakuten最強衛星サービス」を準備中。楽天は2025年4月、ASTと組んで、低軌道衛星と市販スマホの直接通信によるビデオ通話に国内で初めて成功したと発表しています。8月には同社幹部がITmedia Mobileに対し「最後の詰めに取り掛かっており、今年(2026年)内に開始できるよう全力を尽くしている」と話し、ASTのアンテナは他社の30〜40倍の大きさで、他社がSMS程度にとどまるなかブロードバンド通信ができると強調しました。これは楽天の売り文句で、測定された結果ではありません。それでも、今回のAT&Tのハンドオフ技術が日本にも来れば、山や海で最後の基地局の電波が切れても通話が続く、ということになります。国内4社で最も小さい楽天にとっては珍しく技術で先行できるチャンスで、スターリンク陣営のKDDIやドコモにとっては答えを用意すべき宿題になります。

出典:AT&Tニュースルーム、Investing.com、Telco Magazine、Broadband Breakfast、Telecompaper、ITmedia Mobile(楽天モバイル)、楽天モバイル プレスリリース(2025年4月)。

— EVX News 編集部

アイキャッチ画像:米アリゾナ州キットピーク国立天文台のマクマス=ピアース太陽望遠鏡の上空を横切る、AST SpaceMobileの試験衛星「BlueWalker 3」の光跡(2022年)。画像:KPNO/NOIRLab/IAU/SKAO/NSF/AURA/Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミングあり)

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