アメリカの車両灯火の安全基準は、いまだに「運転席に人が座り、ウインカーレバーを指で倒す」ことが前提になっている。NHTSA(米運輸省道路交通安全局)がそこに手を入れる。同局は日本時間10月23日(金)、連邦自動車安全基準(FMVSS)第108号の改正案を提出した。テスラのサイバーキャブのように運転操作装置を一切持たないクルマについて、ウインカーやハザード、ハイ/ロー切り替えの「手動スイッチ」義務を外し、さらに自動運転中であることを周囲に知らせるシアン(青緑色)のランプを任意で付けられるようにする内容だ。
59ページの規則案(ドケット番号NHTSA-2026-1519)は、日本時間23日午後9時45分(米東部時間23日午前8時45分)に連邦官報(Federal Register)の事前公開に載った。正式な掲載は米国時間26日(月)で、そこから30日間の意見募集が始まるため、締め切りは11月25日ごろになる。最終規則が出るまで、路上のルールは何も変わらない。
何が変わるのか
いまのFMVSS第108号は、ウインカー、ハザードランプ、ロービームとハイビームの切り替えに物理的なスイッチを求め、ウインカーとハイビームの表示灯(テルテール)もメーターに付けるよう定めている。改正案では、これらの手動スイッチと表示灯の要件を「手動の運転操作装置があるクルマ」だけに限定する。運転手のいないクルマでも、ウインカーを出し、ハザードをたき、ビームを切り替えなければならない点は同じ。レバーを倒す手の代わりに、自動運転システム(ADS)がやるだけだ。
ハンドルを戻すとウインカーが自動で消える「セルフキャンセル」の要件もなくなる。そもそも戻すハンドルがないからだ。NHTSAの説明はなかなか率直で、「ウインカーの点灯と消灯は交通法規に従うようADSにプログラムされる。人間のドライバーと違い、システムはウインカーを出しっぱなしにしていることを忘れない」と書いている。高速道路で何キロも左ウインカーを出したまま走るクルマの後ろについたことがある人なら、誰のことかすぐわかるはずだ。
残るものもある。ハザードの表示灯はそのまま。クルマがハザードをつけたことを乗客が知りたい場面もあるからだ。ウインカー表示灯のないクルマには、電球切れを知らせる表示灯を「すべての座席からはっきり見える位置」に付けることが求められる。
ロボタクシーに限らず、すべてのクルマに関わる変更も2つある。いまの主流である一体型(インテグラルビーム)ヘッドランプについて、12.8ボルトでの試験という統一条件をやめること。そして、ライトを縦に並べる場合はロービームを上に置け、という規定の撤廃だ。NHTSA自身のコスト分析では、どれも追加コストは生じないとしている。
シアンのランプ
FMVSS第108号には「いまコンピューターが運転中です」と知らせるランプの規定がない。改正案はSAEの規格J3134をもとに、任意装備の「ADSマーカーランプ」の仕様を加える。付ける場合はシアンのランプを4〜8個、前、左右、後ろにそれぞれ1〜2個ずつ、地上15インチ(38cm)以上の高さに取り付ける。点滅はせず常時点灯で、乗員が道路を見ていることを前提としない状態で走っているときだけ点灯できる。シアンを選んだ理由の一つは、パトカーの青色灯と区別しやすいことだとDrive Tesla Canadaは伝えている。
この文書には日本の名前も出てくる。NHTSAが根拠の一つに挙げたのは、日本の交通安全環境研究所が主導した国際アンケートだ。2025年4月に国連の灯火器専門家会議(GRE)で発表されたもので、英国、日本、米国、ドイツの4,400人超のドライバーに、自動運転車にマーカーランプが必要かを尋ねた。どの国でも過半数が「必要」と答え、米国と英国では8割を超えた。2023〜2025年にカリフォルニアで5台を使ってADSマーカーランプの公道試験をしたメルセデス・ベンツも、同じ国連の会議で説明している。日本の灯火の基準は国連の規則とほぼ足並みをそろえているので、そこで決まる色がいずれ日本の道路にやってくる可能性もある。
テスラにとっての意味
サイバーキャブにはハンドルもペダルもサイドミラーもない。テスラはすでにオースティンで一般向けの運行を始めていて、来月にはダラスにも投入する予定だ。テスラはFMVSSの適用除外を申請せず、自社で基準適合を認証した。NHTSAは9月、その認証の根拠を調べる監査(オーディットクエリー)を始めており、Not a Tesla AppとDrive Tesla Canadaがともに報じている。EVwireによれば、各基準にどう適合させたかを問うNHTSAの特別命令への回答期限は10月30日。人間のドライバーを前提にした灯火スイッチのような規定は、まさに問われている部分だ。
NHTSAの基準の書き換えは、これで終わりではない。今年に入って同局は、ソフトウェアだけで走るクルマについてFMVSS第135号のブレーキペダル義務をなくす案を出しており、Not a Tesla Appはこれをサイバーキャブへの直通ルートと呼んだ。シフト表示、ワイパーとデフロスター、タイヤの基準でも同様の改正案が出ている。ジョナサン・モリソン局長は7月、運転手のいない設計についてはハンドル義務の撤廃も「もちろん」検討すると語った。Bloomberg Governmentは今回の文書から、目的は「同じ役割を果たさず、安全上の利点もない装備に伴う規制負担とコスト」への対応だという一節を引いている。
テスラはコメントしていない。この改正だけで監査が片づくわけではないし、案はあくまで案だ。それでも、運転席のないクルマ向けに基準が一つ書き換わるたびに、「サイバーキャブも合法でいるにはハンドルを生やせ」という理屈は一つずつ弱くなる。これまでの安全面の実績は、テスラのロボタクシー安全レポートと、サイバーキャブの初の連邦事故データの記事でまとめている。
出典:連邦官報 事前公開(NHTSA規則案、FMVSS第108号)、規則案全文(PDF)、Drive Tesla Canada、Not a Tesla App、EVwire、Bloomberg Government、Transport Topics、NHTSA(サイバーキャブ監査、9月4日)、ソーヤー・メリット氏(X)
— EVX News 編集部
アイキャッチ画像:カリフォルニア州パロアルト近くの州間高速道路280号を走るテスラ・サイバーキャブ(2026年9月)。撮影:Daniel Lu(dllu)/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)、リサイズ
