2025年に日本で起きた交通事故は28万7,023件。死者は2,547人で、統計が残る1948年以降で最少でした(警察庁、e-Stat)。こうした事故の見出しで、車のメーカー名を見ることはまずありません。ところがテスラの事故となると、見出しの一語目から「テスラ」。しかもその事故は、ほとんどが海外で起きたものです。
きっかけは、Captain Eli(@TheCaptainEli)さんのXの投稿。表示は150万回超。トヨタなら「運転手が負傷」、フォードなら「2台が衝突」、なのにテスラだと「テスラが事故」。米国メディアの話でしたが、日本はどうなのか、数えてみました。
数えたもの
2025年11月〜2026年10月の日本語の事故見出し153本をGoogleニュース(日本版)から集めました。テスラの事故27本と、普通の事故126本(月ごとに検索順で抽出、NHK、読売、朝日、毎日、産経、時事、共同など約40媒体)です。
- 普通の事故: メーカー名が見出しに出たのは126本中0本。
- テスラの事故: 27本中25本が見出しで「テスラ」と名指し(93%)。
- どこの事故か: 27本中24本が海外の事故で、その24本はすべてテスラを名指し。国内の事故は3本だけでした。
正直に書いておくと、テスラの見出しは「テスラ」で検索して集めたので、名前が入っているのは当然です。強い数字はゼロのほう。1年分の国内事故報道で、メーカー名入りの見出しは1本も見つかりませんでした。
日本の事故はこう書かれる
日本の報道には決まった書き方があって、それは良い書き方です。車は「乗用車」「軽乗用車」「トラック」。焦点は何が起きて、誰がけがをしたか。
- 産経新聞(9月29日)「正面衝突で車炎上3人死亡 千葉市の国道交差点、乗用車とトラック」。読売新聞も同じ書き方でした。
- 読売新聞(10月28日)「小田急江ノ島線の線路を軽乗用車が200m走行、電車と衝突し高齢女性が死亡」。TBSとNHKも同様です。
運転支援の事故でも「乗用車」
決め手になったのはこの事故です。高知東部自動車道で車が対向車線にはみ出し、1歳の子が亡くなりました。運転手は靴を履き替えながら「オートパイロット」に頼っていたと話しています。車はトヨタのクラウン クロスオーバーで、使っていたのは車線維持支援のレーントレーシングアシストでした。
国内の死亡事故で、運転支援が絡み、証言に「オートパイロット」という言葉まで出てくる。それでも読売新聞の公判と判決の見出しには、トヨタもクラウンも出てきません。車名は朝日新聞の本文に出てくるだけです。これが米テキサスのテスラだったら、一語目が何になったかは想像がつきます。
テスラの事故は「米国式」で書かれる
「テスラ 事故」で検索すると、出てくるのは米国の事故。翻訳や書き直しで、ブランド名が先頭に来ます。
- ロイター日本語版(6月22日、ニューズウィーク日本版にも転載)「米当局、テスラ車死亡事故巡り調査開始 テキサスで民家に衝突」。記事自体は、どのシステムが使われていたか不明としています。
- 財経新聞(9月6日)「テスラ死亡事故、左折時に運転支援が作動―機能名と事故原因はなお不明」(米イリノイ州バタビア)
- GIGAZINE(10月23日)「テスラ車が自動運転中に高速道路で男性をはねて死亡させる」(米カリフォルニア州のI-80)
この書き方は日本の編集者が考えたものではありません。テスラの事故記事を一から書いている日本のメディアはほとんどなく、通信社、米メディアの日本語版、米国の記事を書き直すテック系サイトが中心です。事実と一緒に、見出しの書き方も入ってくる。日本はテスラを主に米国のニュースで知るので、米国の見出しの癖まで一緒に輸入しているわけです。
唯一の国内のケース
数えた中で国内のテスラの事故は、6月9日の文京区音羽の1件だけ。右折したポルシェが時速約100キロで中央分離帯を越え、信号待ちのテスラに衝突、テスラは3台目の車に押し出されました。小学生の女の子を含む3人が軽傷で搬送され、ポルシェの運転手が逮捕されています。
日本のメディアが自分で書いたこの事故で、見出しにテスラが出たのは3本中1本。テレ朝NEWSは「東京・文京区で3台が絡む事故」。産経新聞はポルシェのみ。集英社オンラインは両方を出しましたが、先に来たのはポルシェ(「《高級外車同士が…》ポルシェがテスラに衝突し3台の事故」)。しかもテスラはぶつけられた側です。
つまり、日本のメディアは自分の書き方なら、テスラもほかの車とだいたい同じように扱っている。「テスラが事故」は輸入品なんです。
見出しにならない数字
テスラは自社の安全データを公表しています。FSD(Supervised)の車両安全レポート(今週の記事)では、北米でFSD使用中の重大事故あたり走行距離は600万6,200マイル。米国平均は66万164マイルです。テスラ自身の、テスラの定義による米国のデータなので、その点は割り引いて読んでください。それでも車両全体の数字で、1件の事故の見出しとは性質が違います。FSDはまだ日本で承認されていないので、日本の読者がFSDについて目にするのは、主にこの輸入された事故の見出しです。
れすちゃんの一言
どの事故にも当事者がいて、亡くなった方には目を引く見出しより正確な報道がふさわしい。テスラに甘くしてほしいわけではありません。4台乗り継いで、FSDも4回買った身として、厳しい質問はどんどんしてほしい。お願いしたいのは、日本のメディアが自分たちのルールを使うことです。高知の運転支援の死亡事故は「乗用車」と書けている。米国から入ってくる記事も、訳すのは事実だけにして、書き方まで訳さないでほしい。
集計方法: Googleニュース(日本版)の日本語の事故見出し153本(2025年11月〜2026年10月)。テスラの見出しは「テスラ」で検索して集めたため、普通の事故126本中0本という結果のほうが強い数字です。便宜的な標本で、科学的な調査ではありません。2025年の統計は警察庁。令和8年版警察白書第5章も参照。
— れすちゃん(EVX News)
アイキャッチ画像:英ロンドン・フィンチリーで事故に遭ったテスラ・モデルX(2021年7月)。写真:No Swan So Fine / Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0(トリミングあり)
