スペースXが、円盤形の回収カプセル「Starfall(スターフォール)」の商用ページを公開しました。spacex.com/starfallに載ったスペックは、ペイロード最大1,000kg、電力1kW、データはイーサネット接続、そしてミッション中はずっとスターリンクでつながりっぱなし。打ち上げはスターシップで、「数週間連続の微小重力」を売りにしています。値段はまだ書かれていません。米国時間2日(月)には、スペースXの公式ストアにStarfallのTシャツまで並びました。
半年前にはほとんど情報がなかった機体としては、大きな変化です。6月の初飛行の前、Starfallについて分かっていたのはFAA(米連邦航空局)とFCC(米連邦通信委員会)への届け出の中身くらいで、直径約3.1m、高さ約0.76mの円盤で約1トンの貨物を持ち帰れる、という程度だったとTeslaratiは伝えています。10月の2回目の飛行はライドシェア便「Bandwagon-5」に相乗りしましたが、何を載せたかは明かされていません。
ページに書かれていること
スペースXが狙う客層は3つです。1つ目はバイオ医療で、iPS細胞(人工多能性幹細胞)のオルガノイドや再生組織、積層バイオ材料の育成。2つ目は創薬で、重力による対流がない環境ではタンパク質や低分子薬の結晶が「より小さく、より均一に」できるとしています。3つ目は材料科学で、真空と微小重力を使った半導体や次世代材料の製造です。
売り文句の中心は「時間」です。「落下塔や放物線飛行で得られる微小重力は数秒」。これに対しStarfallは数週間で、ミッション期間は「ペイロードの要件に合わせて調整可能」。スターリンク接続も地味に大きなポイントで、着水を待たずに軌道上の実験データをその場で取り出せます。うまくいったかどうかを、回収前に確認できるわけです。
ページにないのは価格と、顧客を乗せた初飛行の日付です。TeslaNorthによると、スペースXがXでStarfallの紹介を初めて投稿したのは10月20日。同じ日に発表した第3四半期決算では、四半期中にStarfallの商用ミッションを3件契約したとしています。決算説明会でグウィン・ショットウェル社長は、Starfallを「がんや糖尿病などの病気の理解を深める研究を含め、微小重力環境に定期的かつ比較的低コストでアクセスできる手段」と説明し、新たな3件はスターシップで飛ぶと述べました(決算説明会の記事)。
すでに予約している顧客
公表済みの顧客は2社です。米Redwire傘下のSpaceMDは8月、創薬用の結晶化ミニラボ「PIL-BOX」を最大32台載せる2028年の専用ミッションを契約したとPayloadが報じています。商用の微小重力研究の専用便としては、これまでで最大規模です。PIL-BOX自体は宇宙の常連で、2023年以降54台が国際宇宙ステーション(ISS)に送られ、45種類の化合物を結晶化してきました。
9月にはルクセンブルクのSpace Cargo Unlimitedも、スターシップで打ち上げる2028年のStarfallミッションを確保しました。ニコラ・ゴームCEOはPayloadに対し、1,000kgの搭載枠のうち3分の1はすでに売れ、年末までに半分を埋める見込みだと話しています。「Starfallの容量と電力はパラダイムシフトだ」とも。同社によると、Starfallなら他の回収機と比べて最大10倍の顧客ペイロードを運べるそうです。
これでスペースXは、この市場を切り開いてきた米Varda Space Industriesと微妙な関係になりました。Vardaのカプセル「W-Series 7」は10月、Starfallと同じBandwagon-5で打ち上げられていて、Vardaのカプセルの大きさはStarfallのおよそ3分の1だとTeslaratiは指摘しています。両社を軌道まで運んでいるのはスペースX。そのスペースXが、今度は顧客を取り合う相手にもなったわけです。
すべてはスターシップ次第
「スターシップで打ち上げることで、Starfallはこれまで市場になかった信頼性と拡張性のある頻度を実現する」とスペースXは書いています。裏を返せば、スケジュールのリスクはスターシップにあるということ。スペースXは10月下旬にShip 42とスーパーヘビー・ブースターの静的燃焼試験を終え、両段のタワーキャッチを狙う第15回飛行の準備を進めています。Starfallの事業はスターシップが頻繁に飛ぶことが前提で、予約済みの顧客ミッションはまだ2年先です。
EVXの視点
Starfallは、日本でも育ちつつあるビジネスに正面からぶつかります。仙台の東北大学発スタートアップElevationSpaceは、宇宙で実験・製造したものを地球に持ち帰る回収カプセル「ELS-R」を開発中。初号機「あおば」はドイツIsar AerospaceのSpectrumロケットで打ち上げる予定で、9月には三菱重工と契約し、2号機を2027年にH3ロケットのライドシェアで打ち上げると発表しています。実はSpace Cargo UnlimitedはスペースXだけでなくElevationSpaceとも契約していて、今のところ両者は純粋なライバルというより、同じ店に並ぶ別の棚に近い関係です。それでも、1回1,000kg、スターリンク常時接続、そしてスターシップの飛行頻度という条件は、小型カプセルにとって高いハードルです。ISSの「きぼう」でタンパク質結晶の実験を長年続けてきた日本の創薬・材料研究者は、もうすぐ乗り物を選べるようになります。ISSは2030年ごろに退役する予定なので、次の行き先はどのみち必要です。
出典:スペースX Starfallページ、Teslarati、TeslaNorth、Payload(Redwire SpaceMD)、Payload(Space Cargo Unlimited)、ロイター、ElevationSpace。執筆時点でNot a Tesla AppはStarfallを報じていません。
— EVX News 編集部
アイキャッチ画像:第5回飛行の前夜、テキサス州スターベースの発射塔に組み上がったスターシップ(2024年10月)。撮影:Steve Jurvetson/Wikimedia Commons(CC BY 2.0)
