ニューラリンク、ALS患者が使用1週間で毎分75語の発話を達成 初の数値を公表

ニューラリンクが、ついに「話す」分野で具体的な数字を出してきました。同社によると、臨床試験「VOICE」に参加するALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者1人が、インプラントを使い始めて1週間で、話そうとする脳の信号を文字と音声に変換し、毎分75語、単語誤り率5.8%を達成しました。語彙は12万5,000語です。

ニューラリンクがXに数字を投稿したのは10月29日(木)午前5時02分(日本時間)/米東部時間28日午後4時02分。続く投稿で、試験の責任医師であるネイダー・プーラティアン博士が同日、北東部ALSコンソーシアムの年次総会「NEALS 2026」でデータを発表したと説明しています。

投稿:@neuralink(X)

「ALSの参加者で、会話並みの速さの音声→文字変換と音声出力を実現しつつある」と同社。TeslaNorthが指摘するとおり、ニューラリンクはこれまで発話のデモは見せても、速さや精度の数字は公表していませんでした。数字が出るのは今回が初めてです。

毎分75語ってどのくらい?

自然な会話は毎分150語前後とよく言われるので、75語はまだ「普通にしゃべる」レベルではありません。それでも、話す力を失った人にとって、使い始めて1週間で会話の半分の速さに届くのは、1文字ずつ綴っていく生活とはまるで別物です。

比べるなら、これまでの脳コンピューター・インターフェース(BCI)研究でしょう。2023年に科学誌ネイチャーに載ったスタンフォード大学の研究(別のインプラントを使用)は、同じ12万5,000語規模の語彙で毎分62語、単語誤り率23.8%でした。ニューラリンクの1人の参加者はそれより速く、誤り率は約4分の1。単語誤り率は間違えた単語の割合なので、5.8%はおよそ17語に1回のミスという計算です。

ただし注意点もあります。データは参加者1人分で、数字の出どころは会社と責任医師です。発話のグループに何人いるのか、結果の全体像はまだ明かされていませんし、学会の抄録は査読付き論文ではありません。抄録は学術誌「Muscle & Nerve」が掲載する総会の予稿集に収録されています。ニューラリンクの機器は治験段階で、FDA(米食品医薬品局)をはじめどの規制当局の承認も受けていません。

VOICE試験と、それを支えるロボット

VOICEはClinicalTrials.govにNCT07224256として登録された、「意思疎通の回復を目的とした、ロボットで精密に埋め込むBCI」の初期実現可能性試験です。開始は2025年10月3日、現在も参加者を募集中で、主要評価の完了は2028年10月の予定です。

使う機器は2つ。N1インプラントは頭蓋骨に固定するワイヤレス・充電式の装置で、脳内の極細の電極スレッドにつながっています。そのスレッドを埋め込むのが、ニューラリンクの手術ロボット「R1」。細すぎて人の手では確実に差し込めないためです。対象は、神経疾患で重い発話障害があり、腕や手も不自由な成人。話そうとすると、信号が口や声帯まで届かなくても運動野は反応します。N1がその「話したい」という意図を記録し、ソフトウェアが文字や合成音声に変換します。

試験の暫定的な有効性指標は「月ごとの正しい単語数の最大値(毎分)」で、埋め込みから最長48カ月追跡します。つまり1週目の75語はスタートラインで、上限ではありません。BCIはデータが増えるほどデコーダーが学習して精度が上がるのが普通で、ディープマインドのGenie 4のようなAIモデルが規模とともに賢くなるのと似た構図です。

どこに位置づけられるか

ニューラリンク最初の試験「PRIME」は、まひのある人が考えるだけでカーソルを動かしたりゲームをしたりできるようにするものでした。発話はもっと難しく、もっと個人的な課題です。学術界の多くもこの方向に向かっていて、業界を追うメディアもすぐに反応しました。PANewsが同じ数字を報じ、NeuraBCは英語でのリアルタイム性能として高い水準だと評価しつつ、まだ研究段階の技術だと念を押しています。

ロボットの観点からも面白い話です。R1はマスク氏の企業群のなかでもかなり変わったロボット。人型ロボット競争ではシャオペンのIRONなどのライバルとオプティマスが注目を集めますが、R1は歩きもしないし洗濯物もたたみません。人の手では不可能な精度で脳にスレッドを置いていく。VOICEの新しい参加者は全員、このロボットに頼ることになります。

試験の評価は参加者1人あたり4年間続きます。1週目が毎分75語なら、本当に気になるのは12カ月目の数字です。

出典:ニューラリンクのX投稿(NEALSでの発表、VOICE試験)、ClinicalTrials.gov NCT07224256、Muscle & Nerve(NEALS 2026予稿集)、TeslaNorth、PANews、NeuraBC、ネイチャー(Willettら、2023年)

— EVX News編集部

アイキャッチ画像:2020年8月のデモイベントで展示されたニューラリンクの手術ロボット。写真:Leijurv / Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0(トリミングあり)

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