「EVに反対なのではなく、現実的なだけ」。そう言いたがるトヨタが、10月16日はやけにテスラっぽく聞こえました。日本最大の自動車メーカーは同じ日に、2030年までに約50の全車種をソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)にすると発表。さらに、中国でのEV生産にギガキャストを使うことも明らかにしました。テスラが先駆けた、巨大プレスで一気に鋳造するあの技術です。
マネは最高の褒め言葉、なんて言いますね。トヨタの発表を見ていきましょう。
1. 2030年までに全トヨタ車がSDVに
日経がまず報じ、その後トヨタが認めたところによると、トヨタが世界で売る約50の全車種が、2030年までに自社開発のソフトウェア基盤「Arene(アリーン)」で動くようになります。CNA経由のロイター報道によると、Areneを載せる新車は年間約1,000万台の見込みです。
「ソフトウェア・デファインド」とは、ざっくり言えば、買ったあともOTA(無線)アップデートで進化し続けるクルマのこと。安全機能、運転支援、エンタメが、販売店に行かなくても増えていきます。Areneは2025年に新型RAV4でデビューしました。
トヨタの広報によると、中嶋裕樹CTO(最高技術責任者)がその前の週にブリュッセルで投資家向けに展開計画を説明しました。2035年までにはアライアンス各社のクルマにもAreneを広げたい考えです。そうなれば、トヨタはクルマをつくるだけでなく、ほかの自動車メーカーにソフトを供給する会社にもなります。
ロイターの日本語版は、競争の構図をはっきり書いています。SDVはテスラと中国のEVメーカーが先行する分野で、トヨタはそれを追いかけている、と。トヨタは販売後のソフト課金も計画しています。FSDやプレミアムコネクティビティを買ったテスラオーナーには、おなじみのビジネスモデルですね。
2. 上海のレクサスEV工場でギガキャスト
これとは別に、中嶋氏はブルームバーグに対し(ジャパンタイムズが報道)、上海に建設中の20億ドル規模のレクサスEV工場で、自社製のギガキャスト設備を使うと語りました。工場は2027年に生産開始予定で、トヨタが巨大鋳造プレスを使うのはこれが初めてです。
ギガキャストは、車体の大きな部分をひとつの部品として鋳造する技術です。何十個もの板金・溶接部品がひとつで済みます。テスラがモデルYで導入し、BYDやシャオミが続きました。時間も、工場のスペースも、人手もコストも節約できます。
トヨタはこの技術を「内製」で開発していて、すでに日本で試験も進めているとのこと。中嶋氏は「ものづくりの仕組みを変える大きなチャンスだ」「いつも出発点は内製だ」と話しています。
急ぐ理由は中国です。トヨタの中国販売は、2026年の最初の8カ月で19%減りました。買い手が地元ブランドのEVへ大きく流れているためです。
3. 「マルチパスウェイ」基盤で次期カローラ
日経によると、トヨタは合弁会社の一汽トヨタを通じて、2028年から中国で次世代カローラを生産する計画です。EV、ハイブリッド、ガソリンのどのパワートレインも載せられるトヨタの「マルチパスウェイ・プラットフォーム」を使う初めてのカローラになります。
いかにもトヨタらしい「両にらみ」です。違うのは、その両にらみが、電池で走るカローラも載せられる基盤の上にあること。中国仕様にどのパワートレインが最初に来るかはまだ明かされていませんが、少し前なら考えにくい選択肢でした。
行間を読むと
3つの動きを並べると、はっきりした絵が見えてきます。
- ソフトがクルマを決める。そして販売後も稼ぎ続ける。
- 大型の一体鋳造で、ものづくりが劇的にシンプルになる。
- EVは、世界一競争が激しい市場での主力商品。規制対応のための「お付き合い」ではない。
これはモデル3の量産立ち上げ以来、テスラがずっと言ってきたこととほぼ同じです。トヨタが2026年に同じ結論にたどり着いたことは、テスラの戦略の大きな裏付け。同時に、テスラの先行がどれだけ大きいかもわかります。トヨタの2030年目標は、だいたい、テスラの車両がもう何年も前に到達していた地点なのです。
フェアに言うと、注意点もあります。ギガキャストにはトレードオフがあります。設備は高価で、車種をまたいだ柔軟性は低め。ジャパンタイムズが指摘するように、部品が大きいぶん事故の修理費が高くなることもあります。そうしたコストの管理では、トヨタ名物の生産規律が多くの会社より上手に働くかもしれません。
EVX Newsの視点
大歓迎です。世界最大の自動車メーカーがOTAソフトとギガキャストを取り入れれば、業界全体が前に進み、EVはみんなにとって安く、良くなります。トヨタはこれからも水素やハイブリッドを語るでしょうし、それも続けるはず。それでも10月16日、現代の自動車製造を形づくった会社が、次の章はオースティンとフリーモントにかなり似ていると認めたのです。
出典:Nikkei Asia、CNA/ロイター、The Japan Times、日本経済新聞、NHK。
— EVX News編集部
アイキャッチ画像:2026年型トヨタ・bZ4X。撮影:Alexander Migl、出典:Wikimedia Commons、ライセンス:CC BY-SA 4.0。
