スバルのEVは、これまでずっとトヨタとの共同開発でした。そのスバルが、ついに自社で設計した初めてのEVを見せてくれました。しかもおとなしい子ではありません。510馬力の全輪駆動、0-100km/h加速は4秒を切るテスト車です。ただ、ビジネス的にいちばん大きな数字は別のところにあります。スバルは、この試作車を通常の約半分、およそ1年でつくり上げたというのです。
栃木でスバルが見せたもの
スバルは10月17日(金)、栃木県佐野市のスバル研究実験センター(SKC)で開発戦略の説明会を開きました。MotorFanによると、報道陣は次世代プラットフォーム、新しい水平対向エンジン、次期アイサイト、新しい統合制御コンピューターを見たうえで、自社開発のBEV技術検証車に試乗しました。(MotorFanの記事にはちょっとしたおまけ情報も。テストコース周辺でクマの目撃があり、一時はイベントごと中止になりかけたそうです。クマは来ませんでした。)
AutoNext、産経新聞、日本経済新聞の報道を突き合わせると、EV試作車について分かっているのはこんなところです。
- パワー:前後2モーターで合計380kW(510馬力)、0-100km/h加速は4秒未満。モーターはアイシン製で、現行のスバルEVより小型・軽量です。
- バッテリー:パナソニック エナジー製の円筒形セル約4,000本。パックは従来比25%軽く、エネルギー密度は業界平均より20%高い水準を目指します。
- プラットフォーム:現行の電動スバルより約100kgの軽量化が目標。
- 安全:新しいボディ構造で、前面や前方下部だけでなく、前側面にも衝撃を吸収する部材を追加。衝突時にはフロントモーターが回転して、客室やバッテリーの方向に押し込まれる代わりにエネルギーを吸収する設計です。
- まだ分からないこと:車名も発売時期も、電池容量、航続距離、充電速度も未発表。ボディは開発用なので、見た目から何かを読み取らないでください。
本題:クルマを速くつくる
テーマはスピードです。スバルによると、新しい手法によって、企画・設計から走る試作車ができるまでの期間を約2年から約1年に短縮。日経によれば、車両開発全体の期間も約40%縮めました。主役は2つです。
- デジタルシミュレーション。神奈川大学との共同研究で、タイヤからボディへと振動エネルギーが伝わる様子を可視化できるようになりました。産経はこれを世界初と伝えています。エネルギーを素早く伝えるボディほど操縦性がよくなるので、エンジニアは金属を切る前に画面上で構造を追い込めます。
- 「大部屋開発」。仕事を細かな部署に分けるのではなく、デザイン、設計、生産、調達、サプライヤーが同じデータと目標を共有して一つのチームで動きます。スバルは、これで問題解決にかかる時間が約半分になったとしています。
浮いた時間は貯金に回すだけではありません。スバルは、製品をより早く市場に出したり、性能をさらに磨いたりすることに使い、顧客ニーズの変化に素早く対応するとしています。産経はずばり、猛スピードでクルマを開発する中国勢に対抗するための策だと位置づけています。
自前の「頭脳」も
AutoNextによると、スバルは運転支援、シャシー、パワートレイン、インフォテインメントをまとめて動かす統合制御ユニットも開発中で、チップはAMDとの共同設計です。スバルが自社開発するクルマとして初めてOTA(無線)アップデートに対応し、将来のアイサイトのAI機能も支えます。日経によると、スバルは2020年代後半にソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)を投入する計画です。AutoNextは、現時点でトヨタのソフトウェア基盤「Arene」を採用する予定はないこと、これらの技術の一部は2029年ごろに量産車に載る可能性があることも伝えています。
背景:「60万台のEV」から「賢くいこう」へ
スバルは2023年、2030年までにBEVを年60万台販売する目標を掲げ、電動化に1.5兆円を投じるとしていました。昨年はその投資の大半を見直し、2028年までに予定していた自社開発EVの延期も検討すると表明した、とAutoNextは振り返っています。いまのソルテラ、トレイルシーカー、アンチャーテッドといったスバルのEVは、いずれもスバル株の約5分の1を持つトヨタとの共同開発です。佐野の試作車は、計画のうち生き残った部分を見せてくれました。自社のプラットフォーム、バッテリー、電子制御。市場の準備が整ったら、いつでも出せる状態です。
EVX Newsの見方
これはかなりいい話です。既存メーカーのEVの課題は電池だけでなく、スピードにあります。テスラや中国勢は数カ月単位で改良を重ねるのに、従来の開発は何年もかかる。開発期間を40%縮め、すべてをアップデート可能な1台のコンピューターで動かすのは、戦う場所の選び方として正解です。スバルらしい全輪駆動の走りと安全性を保ったまま、このスピードでクルマをつくれるなら、初の「スバル純正設計」EVは待つ価値がありそうです。次の大舞台は、2027年秋のジャパンモビリティショーです。
出典:日本経済新聞、産経新聞、MotorFan(Yahoo!ニュース)、AutoNext。
— EVX News編集部
アイキャッチ画像:トヨタと共同開発したスバルの現行EV「ソルテラ ET-HS」(今回の試作車ではありません)。「2025 Subaru Solterra ET-HS」、撮影:TTTNIS、ウィキメディア・コモンズより、CC0。
