発表会でテスラ・ロードスターは逆さまに走り、空を飛び、テスラの市販車ラインナップ全車の上をキックフリップで飛び越えました。そして今度はイーロン・マスク氏が、オーナーが頼めばクルマが自分であの芸当をやってくれるようになると言い出しました。しかも、それを試すためのループコースをテキサスに造るそうです。その一方で、テスラのチーフデザイナーは、このクルマのFSDは「限定版」だと話しています。意思を持つスタントカーにして、パートタイムの運転手。順番にほどいていきましょう。
「意思を持つようになる」
テキサス州マクレガーにあるSpaceXの試験場で10月15日にお披露目されてから2日後、マスク氏はテック評論家のロバート・スコーブル氏にXでこう返信しました。
「その通り。ロードスターに頼めば、披露したどのトリックも自律的にこなせるようになる。意思を持つようになるからね。それに、テキサス本社には(ホットウィールよりもクレイジーな)ワイルドなループコースを造るから、そこで自分のロードスターを試せるよ」— イーロン・マスク氏(X)
「意思を持つ(sentient)」はおなじみのマスク流の大げさ表現ですが、中身には根拠があります。Not a Tesla Appが指摘するように、発表会のスタントはすべて、すでに自律で行われていました。マスク氏いわく、「誰も死なせないようにするため」。どのソフトウェアでスタントを動かしたのかは、明らかにされていません。
大人のためのホットウィール
発表会で使われたのは、逆さループのおよそ半分。ロードスターはランプを駆け上がり、最大2Gを生むファン式の吸着システムのおかげで、逆さまのまま張りつきました。そのまま完全に裏返った状態でランプの端から飛び出し、冷ガススラスターで姿勢を立て直し、少しホバリングしてからタイヤで着地。テキサス本社に計画されているコースは、これに一回転のフルループなどを加えたものになります。
ここは細かい条件が大事です。マスク氏は時期も、どのトリムがコースを走れるのかも明かしていません。Not a Tesla Appによると、Performanceトリムにはスラスターがなく、ベースのロードスターには逆さ走行を可能にするグラウンドエフェクトのダウンフォース技術が付きません。サーカスのフルコースを楽しめるのは、最上位モデルだけかもしれません(日本で予約できるPerformanceは、残念ながらスラスターなし組です)。
スネーク川、グランドキャニオン、そして音速の半分
マスク氏の話はコースで終わりません。将来のデモとして、「スネーク川か、もしかしたらグランドキャニオンを飛び越えて、タイヤで着地する」案まで口にしました。発表会でも触れていた、スタントマンのイーベル・クニーベルによる有名なスネークリバー・キャニオン越えへのオマージュです。速度については、Not a Tesla Appによると現在の最高速度は214mph(約344km/h)で、330mph(約531km/h)版も計画中。マスク氏は、いずれ音速の半分にあたる約383mph(約616km/h)を超えたいとしています。小型飛行機の多くの巡航速度より速い計算です。
え、FSDは「限定版」?
ここでどんでん返しです。Not a Tesla Appが取り上げたMotorTrendの解説動画で、テスラのチーフデザイナー、フランツ・フォン・ホルツハウゼン氏は、カメラがあるならFSDに対応するのかと聞かれ、「これはFSDの限定版になる」と答えました。理由は「極端なフロントガラスと、あくまでパフォーマンス重視のクルマというコンセプト」。そのうえで「カメラとハードウェアは載っている」とも話しています。どの機能が省かれるのかは語られていません。
Not a Tesla Appは、台数の問題もあると見ています。アナリストの推計では、2028年に生産が始まった後のロードスターは年2,000台ほどで、サイバートラックと比べてもずっと少ない見込み。少量しか売れない、背の低い、翼とファン付きのくさび形のクルマのためにフル機能のFSDを訓練するのは、割に合いにくいというわけです。
Drive Tesla Canadaは、皮肉な点に気づきました。マスク氏は発表会で、ロードスターはいずれテスラが造る唯一の手動運転車になると話していました。それが今や、ひとりでバク転までするクルマでもあるのです。ステア・バイ・ワイヤ、ブレーキ・バイ・ワイヤ、スロットル・バイ・ワイヤを備えているので、頼まれればいつでもコンピューターがすべての操作を引き受けられます。
EVX Newsの視点
本当の意味での矛盾はありません。ロードスターは、ロボットの神経系の上に建てたドライバーズカーです。公道では自分で運転する。見せ場では、人間がやったら命がいくつあっても足りない芸当を機械に任せる。年2,000台のハイパーカーにFSDの「限定版」というのは、後退ではなく理にかなったエンジニアリング判断です。そしてテキサスにテスラ製のループコースを造るのは、クルマの発表そのものを「行ってみたい場所」に変えてしまう、純度100%のマスク流ショーマンシップ。生産開始の目標は2028年なので、コースがツイートからコンクリートになるまでの時間はたっぷりあります。最初の建設現場のドローン映像を楽しみに待ちましょう。
日本の読者の皆さんへ:テスラジャパンはPerformanceトリムの予約を受け付けています。682万円の予約金で何が手に入るのかは、こちらの記事で詳しく解説しています。
出典:イーロン・マスク氏(X)、Not a Tesla App(ループコース)、Not a Tesla App(FSD)、Drive Tesla Canada、InsideEVs。
— EVX News編集部
アイキャッチ画像:テスラ(Tesla公式Xより)。
